ト二ー・ウィリアムスに学ぶ模倣と創造|ジャズ理論・耳コピ・構造分析の本質 第10回(全11回)#5-10

音楽理論

第10回:トニー・ウィリアムスに学ぶ模倣と創造の本質|自由と構造のバランスを掘り下げる【前編】

トニー・ウィリアムス──彼が辿った「模倣と創造」の道。
13歳でドラムを始め、17歳でマイルス・デイヴィス・クインテットに参加した天才少年は、なぜ単なる演奏者に留まらず、作曲・構築へと進んだのか。
この記事では、トニーの言葉をたどりながら、「自由」と「構造」という2つのテーマを掘り下げます。

自由の器を広げるために、作曲を選んだトニー・ウィリアムス

インタビュアー:トニー、13歳でドラムを始めてから、17歳でマイルス・デイヴィスのバンドに加入。
まさに伝説的なスタートですね。でも、ご自身ではどんな思いでしたか?

トニー:それはね……いつも「これでいいのか?」という気持ちがあったよ。
もちろん演奏は好きだったけど、ドラムだけでは足りないって、どこかで思ってた。
感じているものを全部出せない。言葉で言えば“表現の器”が小さく感じられたんだ。

インタビュアー:だからこそ、作曲や構築に向かった?

トニー:そう。即興演奏では語れないことも、作曲なら語れる。
逆に、譜面では表しきれない“時間”や“呼吸”は、演奏でしか伝えられない。
両方やらなきゃ、自分の全部を伝えきれないって思ったんだ。


☆トニーから学べること☆
おそらくトニーにとって、音楽とは「自分を語るための手段」だったのでしょう。
ただ“技術を披露する場”ではなく、“自分とは何者か”を問い続ける過程そのもの。
だからこそ、演奏と作曲の両方を追い続けたのかもしれません


「観察」と「構造分析」

インタビュアー:あなたは若い頃、マックス・ローチやアート・ブレイキー、フィリー・ジョーなどをそっくりにコピーしていたそうですね。

トニー:うん、それも2年、3年みっちりやったよ。
でもね、ただコピーしたんじゃないんだ。
「なぜこの音をここで入れたんだろう」「この沈黙の意味は?」――そうやって、行為の背後にある“意図”を見てた。

インタビュアー:模倣は分析の道具だった?

トニー:そう。真似ることが目的じゃない。
真似ることで、その人の考え方や構造を学ぶ。
模倣は入り口であり、そこから観察力と分析力が鍛えられるんだよ。

インタビュアー:理論的に掘り下げる感覚だった?

トニー:そうだね。聴いて、コピーして、なんでこうなってるのかを後から理論で説明する。
最初は耳、そのあとに知識が追いついてくる――その順番だった。


☆トニーから学べること☆
模倣という行為は、単なる“演奏の再現”ではなく、“構造の理解”でもある。
どこにどんな意図があり、どうしてその表現になったかを考える――
それこそが「真のコピー」であり、音楽理論の学習にも直結しているのだと思います。


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演奏に潜む自由と責任──トニーの即興設計思想

インタビュアー:あなたの演奏には「自由さ」がある一方で、構造がとてもはっきりしています。
これは意識していたことですか?

トニー:当然だよ。自由には責任が伴うから。
ただ叩き散らすのは自由じゃない。
何を伝えたいか、そのためにどの構造を選ぶか――そういう“設計”をして初めて、演奏が自由になる。

インタビュアー:即興にも「構成」があるということですね。

トニー:そう。良いソロは必ず構造を持っている。
最初のモチーフを変形して展開したり、間合いを変えたり、流れが自然に感じられるように組まれてる。
それが“即興で作曲してる”ということなんだ。


☆トニーから学べること☆
自由とは、何でもできることではなく、「何をどう語るかを自分で決める力」なのかもしれません。
そのためには、理論や構造、展開の感覚が必要になる。
トニーの演奏は、まさに“考え抜かれた即興”の典型です


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次回予告:トニー・ウィリアムスに学ぶ模倣と創造の本質|自由と構造のバランスを掘り下げる【後編】

▶ 次回 第11回はこちら

・音楽を“建築”と捉える発想
・ドラム以外の言語で語ろうとした理由
・「トニー・ウィリアムスとは何者だったのか?」という問いへの彼自身の答え
をじっくり掘り下げながら、シリーズ全体を締めくくります。

【このシリーズの他の記事】

文・構成:浦島正裕(ジャズピアニスト/音楽理論講師)
ピアノと言葉を通して、日々、音楽の仕組みと心の動きの接点を探し続けています。
音楽の音にある「理由」を、常に多角的に考えています。
『THE PALM OF A BEAR』/浦島正裕

クリエイティブノート】この連載は1992年にMusician Magazineに掲載されたTony Schermanによるインタビューを参考にし、独自の再構成と解釈を加えたフィクション形式の記事です。実在の発言内容を基にしていますが、構成上の演出や編集が含まれます。ジャズを学ぶ読者の学習と創造力を促す目的で制作しています。