はじめに:グルーヴに悩むすべてのプレイヤーへ
「テンポは合ってるはずなのに、なぜかノれない…」 「“タイムが良い”ってどういう意味?」 「レイドバック、ラッシュって何を基準に判断すればいいの?」「グルーブって何?」
こうした悩みは、ある程度コード進行に沿ったラインを組み立てられるようになったプレイヤーがぶつかる“次の壁”です。
そんなとき、レイ・ブラウンが語った「タイムが良いとは、ビートの真ん中に居続けること」という言葉が、核心を突きます。
本記事では、その意味を丁寧に解きほぐしながら、タイムとグルーヴの違いを明確にしながら両者の本質とその関係性を探っていきます。
レイ・ブラウンが語る「タイムが良い」とは?
もうひとつ、耳が痛くなるような指摘があります。
「“あいつ、タイムいいよな”ってよく言うけどさ。本当に“いいタイム”って何か知ってるか?」
答えはこれです。
「ビートのど真ん中で弾いて、それを持続できること。
それが“タイム”なんだよ。それがグルーヴを生む。」
これは本当に難しい。だからこそ、それができる人間は、いつだって重宝される。
「そんなことがちゃんとできる奴は滅多にいない。だから仕事が来るんだ。」
「“あいつタイム良いな”ってよく言うけどな、タイムが良いってのは“ビートの真ん中に居続ける”ってことだ。そこにいられたら、誰とでも演奏できる。」
これは単に“メトロノームに合わせている”という話ではありません。音楽の中心にどっしりと立ち続ける強さの話です。
【補足解説1】
✅ タイム(Time)とは?
🔹定義:
「時間軸上の正確さ」や「テンポ感の安定性」のこと。
🔹例:
メトロノームとズレずに正確に弾けるか
同じテンポでずっと維持できるか
小節の頭や裏拍の位置を正確に感じているか
🔹タイムが良いとは?
「自分の中に安定したビートがあり、演奏にブレがない状態」
→ つまり、土台がしっかりしている演奏者
【補足解説2】
✅ グルーヴ(Groove)とは?
🔹定義:
「複数の安定したタイム感を持つ音同士が、微妙な“ズレ”や“引き合い”を通じて生み出す、心地よいリズムのうねりと音楽の推進力。単独では生まれず、“関係性”の中で生じる現象。」のこと。
🔹例:
フレーズのタイミングが少し前or後ろで“ノリ”を作っている
リズムが生き物のように“揺れている”のに、崩れていない
🔹グルーヴがあるとは?
「演奏が心地よく前に進む感覚があり、自然と体が動くような演奏」
→ つまり、音楽として“生きている”演奏
【補足解説3】
🧩 両者の違いを一言でいうと?
タイムは“縦の正確さ”、グルーヴは“横の流れ”
【補足解説4】
🧩 「タイムとグルーヴの違い」を周波数波形の比喩で説明すると?
🎵 タイムは「等間隔の波形」
🎵 グルーヴは「複数の波形がズレながらも調和する状態」
🎯 ズレているが噛み合っている=グルーヴの本質

「真ん中」と「ズラし」は両立する
ジャズ演奏では「レイドバック(遅らせる)」「ラッシュ(前のめり)」といった“ズラし”が重視されます。一見、レイの言葉と矛盾するように思えますが、これは「基準を知った上でズラす」ということなのです。
- タイムの“ど真ん中”を身体で掴み、それを持続出来ている人だけが、意図してズラせる
- 真ん中を知らずにズレるのは、ただの“ズレ”でしかない
つまり、「真ん中にいられる」=「ズレることもできる」ための前提条件なのです。
グルーヴは“会話”である
グルーヴとは、「自分が正しく弾けているか」ではなく、「相手とどう反応し合っているか」で決まります。
「歌手が遅れてる?だったら俺が前に出て支える。ドラマーが走ってる?だったら俺が後ろで受け止める。それがグルーヴだ。」
このように、グルーヴは「ずれないこと」ではなく「ずれても崩れないこと」、つまり相互反応の中で“芯を保つ”力なのです。
練習で鍛えるグルーヴの芯
グルーヴ感を養うには、適切なトレーニング機材の活用も有効です。以下のアイテムは、リズム感やタイム感を磨くのに役立ちます。
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練習と同時に正しいテンポや音程も管理でき、日々のトレーニングの質を高めてくれる頼れるパートナーです。
- 🎧『We Get Requests / Oscar Peterson Trio』(レイ・ブラウン参加)
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2ビートのルート弾き練習(テンポ70以下)
- 1音1音に“重さ”と“意図”を込めて弾く
- メトロノームを2・4拍に設定して裏の意識を養う
【補足】1拍目の重心を見失わないために
この練習は裏拍のグルーヴを体得するのに有効ですが、1拍目や3拍目の“地面”が感じられなくなるリスクもあります。したがって、以下のように段階的に取り組むのが理想です:
- 最初は全拍を鳴らして、1・3拍の重さと着地を明確に感じる
- 十分に身体に染み込んだ後に、2・4拍に切り替えて裏拍感覚を強化
- メトロノームなしでも「1拍目にしっかり重心が落ちている」感覚を養う
このように、「ビートの真ん中を感じ続けた上での裏拍意識」を育てることが、信頼されるグルーヴにつながります。
デュオ練習で“補い合い”を体験する
- ピアノ/ドラムと対話的にズラして戻す感覚を磨く
- 「自分が引っ張る」「支える」の切り替えを感じる
録音と客観視
- 自分のノリが一定か? 相手と噛み合っているか?
- リズムの芯が、耳で聴いて「自然」に聞こえるか?
まとめ:タイムとグルーヴ
- タイムが良いとは「真ん中にいられる」こと。そしてそれを持続できること。
【「時間軸上の正確さ」や「テンポ感の安定性」のこと。】
- グルーヴとは「相手との呼吸をつなぐ会話」であり、「しっかりとしたタイムを持っている者だけが扱える技術」
【「複数の安定したタイム感を持つ音同士が、微妙な“ズレ”や“引き合い”を通じて生み出す、心地よいリズムのうねりと音楽の推進力。単独では生まれず、“関係性”の中で生じる現象。」のこと。】
次回:【第3回】信頼される演奏とは何か?~レイ・ブラウンに学ぶ仕事術と音楽人生~
「音は合ってるのに、なぜか“選ばれない”」
「演奏後、“いいソロだったね”じゃなく、“安心感あった”って言われたい」
次回は、“一音の説得力”で生涯にわたり第一線で活躍したレイ・ブラウンの「信頼される音」の秘密に迫ります。
仕事につながる音とは?地味だけど長く必要とされるベースの本質を掘り下げます。
レイ・ブラウンが語る【音色とグルーヴの極意】全3回(リンク)
【Creative Note】
本記事は、レイ・ブラウンによるマスタークラスや演奏動画、インタビュー資料等を参考に、著作権上問題のない教育目的で再構成しています。文中の引用は原典の趣旨を尊重しつつ、指導用に編集されています。
文・構成:浦島正裕(ジャズピアニスト/音楽理論講師)
ピアノと言葉を通して、日々、音楽の仕組みと心の動きの接点を探し続けています。
音楽の音にある「理由」を、常に多角的に考えています。
☆『THE PALM OF A BEAR』/浦島正裕
☆参考にした動画☆