🎹最終回:「創造とは選ぶこと──ビル・エヴァンスが語る“即興”の本質」
📘 ここからでも読めますが、全体を通して読むとより深く学べます
この記事はシリーズの最終回にあたります。
これまでの内容を振り返りたい方、また初めてこのページに来られた方は、ぜひ過去記事とまとめページをご覧ください。
👉 第1回:「音楽を建てる」
👉 第2回:「練習=聴くこと」
👉 第3回:「音色と“間”の美学」
第1章:インスピレーションはどこから来るのか
聞き手(ライオンズ):即興演奏の際、どんなことを意識していますか?あるいは、アイディアはどこから生まれてくるのでしょうか?
ビル・エヴァンス(以下、エヴァンス):僕にとって即興とは“選択”なんだ。完全な無から音を創るわけじゃなくて、そこにある可能性の中から「どれを選ぶか」が即興になる。つまり、事前の知識と感覚がベースになって、その場での判断が音になるってことだね。
ライオンズ:その場の直感、だけじゃないということですね。
エヴァンス:そう。直感は、実は準備の積み重ねの中から生まれるもの。だから僕は「即興=瞬間の構成」だと思っているんだよ。
第2章:“選ぶ耳”を育てる
ライオンズ:即興では「反射的に弾く」ようなイメージがありますが……。
エヴァンス:それも大事だけど、“反射”っていうのは、ちゃんとした判断の積み重ねがあってこそなんだよ。僕がやってるのは、膨大な音の選択肢の中から、「今この瞬間に最もふさわしい音」を選び取ること。そのためには、耳が判断できなきゃいけない。
ライオンズ:その耳をどう育てるかが課題ですね。
エヴァンス:聴くこと、真似ること、そして自分の演奏を客観的に聴き直すこと。結局、即興の訓練って“選ぶ耳”を育てることなんだと思うよ。
第3章:ミスを恐れず“構築”する
ライオンズ:間違えることを恐れる人も多いですが、あなたの演奏にはそういった恐れを感じません。
エヴァンス:ミスを避けるんじゃなくて、受け入れて構築していくのが大事だと思ってる。即興は“建設”なんだ。だから、多少崩れても全体の流れを壊さなければいい。そこから新しい流れを作れることもあるからね。
ライオンズ:まさに創造ですね。
エヴァンス:即興って、即座の判断で何かを“作る”というより、“見つけていく”感じかな。発見の連続、というのが正確かもしれない。
🧱 ビル・エヴァンスから学べること
- 即興とは“選ぶ力”である: → ただ自由に弾くのではなく、数ある選択肢の中から「今ふさわしい音」を選び取る力が即興力なんですね。
- “準備された直感”が即興を支える: → 直感は無意識の知識や経験の集積から生まれるもので、感覚と理論の両方が裏打ちされて初めて「使える直感」になるんだと思います。
- “ミス”も音楽の一部として捉える感覚: → 間違いを否定するのではなく、そこから何を構築するかという発想が、より深い即興演奏に繋がる気がしますね。
最後に: 座右の書──私にとっての『ザ・グレイト・ジャズ・ピアニスト』
ビル・エヴァンスの音楽に初めて出会ったとき、私はただ「美しい」と感じただけでした。
けれど、その美しさがなぜ生まれるのか──どうすれば自分もそのように演奏できるのか──
そんな迷いの中で出会ったのが、一冊のインタビュー集でした。
『ザ・グレイト・ジャズ・ピアニスト──27人が語るジャズ・ピアノの魅力』(レン・ライオンズ著)。
この本の中で語られるビル・エヴァンスのインタビューに、私は衝撃を受けたのです。
彼は「音楽を構造的に捉えること」「表現の裏には必ず理論的な骨組みがあること」を語っていました。
感情に任せるのではなく、構築するように演奏する。
その思想に触れたとき、私は初めて「ジャズを学ぶ」ということの意味を理解しました。
エヴァンスの語る音楽観を通して、私は知ることになります。
感覚的な素晴らしさ──あの一音ごとに漂う詩情や深みは、決して偶然に生まれるものではない。
それは、和声や時間構造、音の配置、間の取り方といった目に見えない設計を緻密に積み重ねた結果なのだ、と。
また、音楽に対して真摯で謙虚な態度で臨むこと―その事の大切さを教わりました。
それ以来、音楽の構造を丁寧に掘り下げ、理論からしっかりと再構築していくという姿勢は、私の演奏にも、指導にも、そして人生そのものにも深く影響を与え続けています。
この一冊がなければ、今の私はありませんでした。
それほどに、私にとってこの本は座右の書と呼べる存在なのです。
このシリーズで、この本の内容を抜粋・要約して紹介させて頂きました。【完】
当シリーズの書籍紹介
『ザ・グレイト・ジャズ・ピアニスト~27人が語るジャズ・ピアノの魅力』著者:レン・ライオンズ(Len Lyons)
【内容と特徴】
本書は、ジャズ・ピアノの歴史的背景から始まり、27人のピアニストへのインタビューを通じて、彼らの音楽的思想や演奏スタイルを深く掘り下げています。各ピアニストの章では、彼らの生い立ち、影響を受けた音楽、即興演奏へのアプローチ、そしてジャズ・ピアノに対する哲学が語られています。また、彼らがどのようにして独自のスタイルを確立したのか、その過程や苦悩も明かされています。👉 Amazonで見る
📚 ビル・エヴァンス関連書籍
『ビル・エヴァンス ミュージカル・バイオグラフィー』キース・シャドウィック 著/湯浅恵子 訳(2010年2月刊|DU BOOKS)
🎶 どんな本?
本書は、「音楽そのもの」にフォーカスしたビル・エヴァンスの評伝です。タイトルに「ミュージカル・バイオグラフィー」とある通り、単なる人物伝ではなく、エヴァンスの作品群、演奏スタイル、創作哲学を徹底的に分析し、その音楽的足跡を詳細に追っています。
演奏の背景や美学に重きを置いた構成は、演奏家・研究者・ジャズ批評家にとっても非常に参考になります。
🔍 特徴・魅力
- 楽曲・アルバム単位で細かく分析
→ “Waltz for Debby”や“Sunday at the Village Vanguard”など、名盤の制作背景や演奏構造を深く掘り下げる。 - 音楽理論・即興論が豊富
→ コード・ボイシング・フォームの工夫、リハーモナイゼーションの実例にも踏み込む。 - エヴァンスが「どうやって音を作っていたか」を明らかに
→ 感性と構造、感情と設計の両面を分析する希少な一冊。 - 欧米の文献・インタビューを網羅した情報量
→ 世界的に信頼される研究書のひとつ。翻訳も丁寧で読みやすい。
🎯 こんな人におすすめ
- エヴァンスの演奏やアルバムを構造的に理解したい中上級リスナー・演奏家
- 理論と感性のバランスを探っているピアニスト・作曲家
- 「即興と構築の間」を学びたい音楽教育関係者
- 既に伝記を読んだことがあるが「音楽面」をさらに深く掘り下げたい方
📝 読んで得られる“気づき”
- 「エヴァンスの“静かさ”は、設計されたものだった」
- 「リリカル=構造が曖昧、ではない」
- 「即興とは、準備された音楽言語を編み直す営みである」
演奏に使える“学び”が詰まっており、ジャズ実践者にとってはまさに“教科書”と呼べる一冊です。
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『ビル・エヴァンスと過ごした最期の18か月』ローリー・ヴァホーマン 著/山口三平 訳(2021年9月刊|DU BOOKS)
🕯️ どんな本?
本書は、ビル・エヴァンスの最晩年(1980年頃)に密接に関わった著者による、極めて私的で感情的な回想録です。著者のローリー・ヴァホーマンは、エヴァンスのマネージャー、運転手、仲間として最後の18か月を文字通り“共に過ごした”人物。彼の「音楽家としてではない日常」や「人間としての脆さと優しさ」が生々しく描かれています。
🔍 特徴・魅力
- 公的な評伝には書けなかった“裏の姿”を記録
→ ドラッグ依存、経済的困窮、身体の限界…それでも演奏に向かうエヴァンスの姿が痛切。 - 演奏家としての“孤独”と“信念”が胸に迫る
→ ステージ裏の沈黙、車内でのつぶやき、演奏後のまなざしまで克明に綴られている。 - 会話形式の章が多く、映像的に読める
→ ドキュメンタリー映画を見るような臨場感と、文芸的な静けさが同居。 - 音楽に人生を賭けた人間の「終わり方」に学ぶ
→ エヴァンスが命を削って音楽に捧げた理由が、言葉を超えて伝わってくる。
🎯 こんな人におすすめ
- ビル・エヴァンスの音楽に心を動かされたすべての人
- 彼の“音の背後にある人生”を理解したい演奏家・愛好家
- 「芸術と死」「人生と表現」の結びつきに関心のある読者
- ジャズだけでなく、人間の尊厳や孤独に触れる物語を求めている方
📝 読んで得られる“気づき”
- 音楽は“生きる手段”ではなく“生きる理由”になり得る
- 演奏者の“最後の音”には、人生が詰まっている
- 偉大な音楽家も、ひとりの弱い人間であったという真実
その18か月が、彼の音楽の“静かさ”をもっと深く響かせてくれるかもしれません。
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📘 ここからでも読めますが、全体を通して読むとより深く学べます
この記事はシリーズの最終回にあたります。
これまでの内容を振り返りたい方、また初めてこのページに来られた方は、ぜひ過去記事とまとめページをご覧ください。
👉 第1回:「音楽を建てる」
👉 第2回:「練習=聴くこと」
👉 第3回:「音色と“間”の美学」
📝 クリエイティブノート(著作権・編集方針)
本記事は、レン・ライオンズ著『ザ・グレイト・ジャズ・ピアニスト』収録のビル・エヴァンスのインタビューを参考にしつつ、著作権に配慮した再構成を行っています。逐語的引用は避け、内容を教育的文脈で再解釈し、会話形式に編集しています。著作権法およびフェアユースの精神を尊重した構成としています。
文・構成:浦島正裕(ジャズピアニスト/音楽理論講師)
ピアノと言葉を通して、日々、音楽の仕組みと心の動きの接点を探し続けています。
音楽の音にある「理由」を、常に多角的に考えています。
☆『THE PALM OF A BEAR』/浦島正裕