🎹第2回:「練習とは“聴くこと”──ビル・エヴァンスの自問自答から学ぶ耳の育て方」
第1章:練習とは何か──反復よりも意識
聞き手(ライオンズ):あなたの練習スタイルは、他のジャズ・ピアニストと比べて少し独特だと感じます。日々どんな練習をされていますか?
ビル・エヴァンス(以下、エヴァンス):僕にとって練習って、ただ指を動かすことじゃないんだよね。練習とは、自分の音を“聴く”こと、そしてその音がどう意味を持つかを理解しようとする過程なんだ。
ライオンズ:具体的には、どんなことを意識しているんですか?
エヴァンス:たとえばスケールを弾く時でも、「ただ弾けるようになること」を目指すんじゃなくて、その中に“何を感じるか”に集中するようにしてる。指より耳を使う練習なんだ。
第2章:自問自答の練習──内的対話としての音楽
ライオンズ:あなたは演奏を“内的対話”と表現したことがありますよね。
エヴァンス:そう、僕は常に「この音は何を意味するのか?」「なぜこの音を選んだのか?」って自分に問いかけながら演奏してる。練習でも同じで、自問自答がないと“慣れ”でしかなくなる。だから、たとえ同じフレーズでも、その都度、意味を探していくようにしてる。
ライオンズ:それは大変な集中力がいりそうですね。
エヴァンス:でもね、そうすることで音楽は“自分のもの”になっていく。誰かの真似じゃなくて、自分の意志で選んだ音になる。自問自答の癖がつくと、即興の中でも流されなくなるんだ。
第3章:耳を育てる──理論を超えて“聴く力”を高める
ライオンズ:理論を知っているだけではダメだ、ということですね。
エヴァンス:理論はもちろん大事。でも、それを“聴ける耳”がなければ意味がない。僕は、同じコード進行を何度も何度も聴いて、その響きを“身体で覚える”ような練習をしてきた。紙の上で知ってるだけじゃ、実際の音楽にはならないんだ。
ライオンズ:つまり、知識より感覚?
エヴァンス:理論は重要。つまり両方必要。耳が育てば、理論の意味ももっとよくわかるようになるんだ。だからこそ、若いミュージシャンには「とにかく聴け」と言いたいね。
🧱 ビル・エヴァンスから学べること
- 練習とは“聴くこと”:
→ 指を動かすのではなく、“耳”を働かせることが、本当の意味での練習なのかもしれませんね。 - 演奏とは内的対話である:
→ 自問自答しながら音を選ぶことによって、演奏が自分自身の意思を反映したものになると思います。 - 理論を“耳で理解する”重要性:
→ 紙の上の知識だけでなく、実際の音として感じ取る力が身につけば、理論の深みも自然と理解できるようになるんですよね。
📚 ビル・エヴァンス関連書籍
『ビル・エヴァンス 増補決定版:没後40年』(文藝別冊)河出書房新社編集部 編(2020年3月刊)
🏛️ どんな本?
“文藝別冊”シリーズのひとつとして刊行された本書は、ビル・エヴァンス没後40年の節目に編集された集大成的なムック本です。過去に出版された初版に加え、新たな視点や寄稿、ディスコグラフィーを加えた“増補決定版”となっており、ビジュアルと読み物の両面からエヴァンスを堪能できる構成になっています。
🔍 特徴・魅力
- 豪華な寄稿陣による評論・回想・対談を収録:現役ジャズミュージシャンや音楽ライターが多数参加。
- 豊富な写真・スコア断片・ジャケット資料:視覚的にも楽しめるファンブック的要素も。
- ディスコグラフィーや年譜も収録:資料価値が高く、研究者や演奏家にも実用的。
- ジャンル横断的な評論スタイル:音楽だけでなく哲学・文学的観点からの考察もあり。
🎯 こんな人におすすめ
- ビル・エヴァンスの“全体像”を多面的に把握したいファン
- 資料としても読物としても使いたい人
- 視覚的にも楽しめる“保存版”を求めているコレクター層
- 雑誌感覚で読み進められるボリューム感を求める方
📝 読んで得られる“気づき”
- 「ビル・エヴァンスの音楽は“空間芸術”である」
- 「彼の演奏には“詩的な構造”がある」
- 「録音に現れた変化とその時代背景の関係性」
といった深掘りを、1冊の中でバランスよく味わえる構成です。
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『ジャズ完全コピーシリーズ(2) ビル・エヴァンス』稲森康利 著(2006年7月刊|中央アート出版社)
🎼 どんな本?
本書は、エヴァンスの名演を完全コピー譜として再現しつつ、実際の演奏で使われているボイシングやリズムのニュアンスまで忠実に再現した実用的なスコア集です。ピアニストが「耳コピでは再現できなかった微細な表現」を楽譜で学べる構成となっており、“ビル・エヴァンスの音”を手元に呼び込む”ような一冊です。
🔍 特徴・魅力
- 演奏を完全採譜したスコア集:イントロ〜アウトロまで、即興フレーズやペダリングも明記。
- 丁寧な和声分析と演奏ポイント付き:稲森氏の解説は理論的にもわかりやすく、分析にも実演にも役立ちます。
- トリオ作品の再現度が高い:ベースラインやインタープレイの構造まで意識して書かれている。
- 複数曲収録でコストパフォーマンスも高い:有名スタンダードを通してエヴァンス流解釈を追体験できます。
🎯 こんな人におすすめ
- ビル・エヴァンスのソロやイントロを完全コピーで再現したいピアニスト
- 「どう弾いてるの?」が譜面で明らかになることに価値を感じる方
- 既にいくつかのビル・エヴァンス音源を聴き込んでいて、演奏に踏み込みたい中級者以上
- ジャズピアノの教材として、コピー譜を探している指導者・学生
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『リアル・アコースティック・ピアノ ビル・エヴァンス・ジャズ・ピアノ奏法』林知行 著(リットーミュージック刊)
🎹 どんな本?
本書は、ビル・エヴァンスの演奏スタイルを理論的に解き明かし、実際のピアノ演奏に応用できる形で構成された教則本です。タイトルにある「リアル・アコースティック・ピアノ」とは、生ピアノで再現されるべきエヴァンスのタッチや音色、そしてハーモニーを、深く分析・再現しようという意志の現れ。
単なるコピー譜ではなく、「ビル・エヴァンス流ピアノをどう弾くか」を構造的・実践的に学べる一冊です。
🔍 特徴・魅力
- 左手のボイシングやペダルの使い方を解説
→ 和声的な響きと余韻の作り方が丁寧に分析されています。 - 「音色を作る」技術が学べる
→ 指の脱力、ベロシティ、間(ま)の取り方といった演奏的要素に着目。 - 模範演奏CD付き(初版)
→ 実際の演奏音でイメージを確認しながら練習できる。 - 林知行氏の説得力ある理論解説
→ 著者自身がジャズピアニストであり、演奏者目線のわかりやすさがあります。
🎯 こんな人におすすめ
- 「コードが弾ける」だけでは物足りない中級〜上級ピアニスト
- ジャズピアノの音色・余韻・空間処理を意識して弾けるようになりたい方
- 「ビル・エヴァンスらしさ」の再現に挑戦したい人
- 実践的なエヴァンス奏法を理論面から学びたい音楽教育者・理論派プレイヤー
📝 読んで得られる“気づき”
- なぜエヴァンスは「間」を空けるのか?
- なぜ彼の左手は「動かないのに響く」のか?
- タッチ・ハーモニー・時間軸を「構築」する感覚とは?
そんな疑問へのヒントが、この本には詰まっています。
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👉 リアル・アコースティック・ピアノ ビル・エヴァンス・ジャズ・ピアノ奏法
▶️ 次回(第3回)予告
ピアノの鍵盤から生まれる「音色」は、どこまで意識できるでしょうか?
次回は、ビル・エヴァンスが語った“いい音とは何か”を掘り下げます。
タッチ、間、そして音に込められた意思を考えます。
👉 第3回:「“いい音”とは何か──ビル・エヴァンスが語るタッチと音色の哲学」
📘 第1回をまだお読みでない方へ
この第2回から読まれた方は、ぜひ第1回「音楽を“建てる”という発想」からお読みいただくと理解が深まります。
また、シリーズ全体の構成や各記事の概要を確認したい方は、以下をご参照ください。
📝 クリエイティブノート(著作権・編集方針)
本記事は、レン・ライオンズ著『ザ・グレイト・ジャズ・ピアニスト』収録のビル・エヴァンスのインタビューを参考にしつつ、著作権に配慮した再構成を行っています。逐語的引用は避け、内容を教育的文脈で再解釈し、会話形式に編集しています。著作権法およびフェアユースの精神を尊重した構成としています。
文・構成:浦島正裕(ジャズピアニスト/音楽理論講師)
ピアノと言葉を通して、日々、音楽の仕組みと心の動きの接点を探し続けています。
音楽の音にある「理由」を、常に多角的に考えています。
☆『THE PALM OF A BEAR』/浦島正裕